ムーミンの小説について

日本では、TVアニメをきっかけに、ムーミンを知る人が多く、『ねえムーミン、こっち向いて』の主題歌は、幅広い年齢層で親しまれています。そのため、ムーミンにはほのぼのしたイメージが強いですが、原作者のトーベ・ヤンソン女史は、かつて新聞にヒトラーの風刺画を描いていたような人。ムーミンにも、ほのぼのとは少し違う世界もあるのをご存知ですか。
トーベ・ヤンソン原作のムーミンにはコミック、絵本、小説があります。その中で、本当にコアなムーミンファンは小説から生まれると言われています。
小説は全9巻で、挿絵もトーベ・ヤンソンに描かれたもの。登場人物はシャープなタッチでアニメのムーミンとは少し異なる表情を見せています。そして、ストーリーも時にシリアスでシュール、難解だなあと感じることすらあるのです。そこから、『ムーミンは深い』という認識となり、熱心なファンが誕生します。
ムーミンの世界を理解するために、小説に親しむことは欠かせません。しかし小説は、コミックと比べると少し敷居が高いイメージがあるかもしれません。そこで、ムーミン小説全9巻の簡単な読書案内を掲載することにしました。登場人物が増えていく流れがわかるので、発行された順番に読むのがお勧めです。
ムーミンの小説は薄い本なのに、読み進めるのにとても時間がかかるのです。簡単に飛ばし読みするのも難しくて、時々深く考え込んでしまうかもしれません。それでも最後には心がぽかぽか温まるような話しですから、ファンに強く支持されるのも当然ですね。
この読書ガイドをきっかけに、ぜひムーミンの小説を読んでみてください。
ムーミンの深い世界にようこそ!

ムーミン小説 小さなトロールと大きな洪水(1945年)

小さなトロールと大きな洪水(1945年)

あらすじ

日本では、TVアニメをきっかけに、ムーミンを知る人が多く、『ねえムーミン、こっち向いて』の主題歌は、幅広い年齢層で親しまれています。そのため、ムーミンにはほのぼのしたイメージが強いですが、原作者のトーベ・ヤンソン女史は、かつて新聞にヒトラーの風刺画を描いていたような人。ムーミンにも、ほのぼのとは少し違う世界もあるのをご存知ですか。
トーベ・ヤンソン原作のムーミンにはコミック、絵本、小説があります。その中で、本当にコアなムーミンファンは小説から生まれると言われています。
小説は全9巻で、挿絵もトーベ・ヤンソンに描かれたもの。登場人物はシャープなタッチでアニメのムーミンとは少し異なる表情を見せています。そして、ストーリーも時にシリアスでシュール、難解だなあと感じることすらあるのです。そこから、『ムーミンは深い』という認識となり、熱心なファンが誕生します。
ムーミンの世界を理解するために、小説に親しむことは欠かせません。しかし小説は、コミックと比べると少し敷居が高いイメージがあるかもしれません。そこで、ムーミン小説全9巻の簡単な読書案内を掲載することにしました。登場人物が増えていく流れがわかるので、発行された順番に読むのがお勧めです。
ムーミンの小説は薄い本なのに、読み進めるのにとても時間がかかるのです。簡単に飛ばし読みするのも難しくて、時々深く考え込んでしまうかもしれません。それでも最後には心がぽかぽか温まるような話しですから、ファンに強く支持されるのも当然ですね。
この読書ガイドをきっかけに、ぜひムーミンの小説を読んでみてください。
ムーミンの深い世界にようこそ!


幻のものがたり

本作『小さなトロールと大きな洪水』は、第二次世界大戦の終戦後まもなく出版されたものの、混乱の時代のなかで絶版となってしまった作品です。世界中の読者からの要望で再び出版されたのは、ムーミンシリーズが完結してから20年あまり経ってからのことでした。そのため、ムーミン誕生の記念すべき作品であるにもかかわらず、広く読まれるようになったのはシリーズ中最も遅いという数奇な運命を辿ったのです。


作者トーベ・ヤンソンの想い

序文では、作者トーベ・ヤンソンがムーミンとの出会いやムーミンシリーズへの想いを綴っています。短い文章ですが、「怒った顔をした生きもの」ムーミンが主人公のものがたりを書こう、そう彼女が決心した経緯や当時の時代背景を垣間見ることができます。そして次のページをめくれば、そこはもうムーミンの世界。ムーミン谷の個性豊かな住人たちがあなたを待っています。


登場人物たち

日本では、アニメシリーズを観てムーミンファンになったという方も多いのではないでしょうか。しかし、今回ご紹介する文庫シリーズでは、丸くて可愛らしい、そんなムーミンとはひと味違う挿し絵がたくさん散りばめられています。長細いシルエット、少しまぬけにも見えるまんまるの目…。挙げればきりがないほどですが、特に注目してほしいのはムーミンママ!なんと、その代名詞ともいえるエプロンをしていないのです。ムーミンママが挿し絵に登場したときは、ぜひチェックしてみてくださいね。


出会いと別れ

ものがたりの中では、主な登場人物のほかにいろいろな生きものが描かれています。彼らは大きさも性格もさまざまですが、その出会いと別れには、スパイスのようにぴりりと心に残るものがあるのです。それはムーミントロールの何気ないひとこと、ムーミンママが諭すようにいった言葉…。もちろん童話ですから、ものがたりはどんどん進み、登場人物たちの描写も細かくはありません。けれども、心のさみしさや暗やみを照らす一節にふと出会ったとき、私たち読者は立ち止まり、自分自身に問いかけるでしょう。ムーミントロールのまんまるの目や、ムーミンママの柔らかそうな手に、どこか懐かしい気持ちも生まれてくるようです。
個性豊かなキャラクターが繰りなす冒険のものがたりは、ムーミントロールたちが探し求めるお日さまのように、きらきらと読者のこころを照らすもの。ムーミンシリーズが長く世界中の人々に愛されてきたそのわけが、きっと伝わる第一作です。

ムーミン小説 ムーミン谷の彗星(1946年)

ムーミン谷の彗星(1946年)

あらすじ

ある嵐のあと、ねずみ色におおわれてしまったムーミン谷。「地球が滅びてしまうかもしれない!」怖がるムーミントロールとスニフは、ムーミンパパに言われ、『おさびし山』にあるという天文台へと旅立ちます。その途中で出会った物知りのスナフキンから、おそろしい「彗星」が地球に向かってくるという噂を聞き、ムーミンたちはいっそう大騒ぎ。そうして見知らぬ山を急ぐうちにも、長い尾をひいた彗星は近づいてきて…。


劇場版としてリメイク

ムーミン童話シリーズの第二作である本作『ムーミン谷の彗星』は、テレビアニメ『楽しいムーミン一家』の劇場版としても広く知られていますね。ムーミントロールたちが繰り広げる冒険のものがたりは、まさに危機一髪、はらはらする場面の連続です。ムーミン谷へ近づく彗星にまつわる旅を描いた本作は、シリーズの中でも特にファンタジーにあふれ、多くのファンに愛されています。気に入った方はぜひ、映像もご覧になってみてはいかがでしょうか。
序文では、作者トーベ・ヤンソンがムーミンとの出会いやムーミンシリーズへの想いを綴っています。短い文章ですが、「怒った顔をした生きもの」ムーミンが主人公のものがたりを書こう、そう彼女が決心した経緯や当時の時代背景を垣間見ることができます。そして次のページをめくれば、そこはもうムーミンの世界。ムーミン谷の個性豊かな住人たちがあなたを待っています。


スナフキンの登場

ムーミンシリーズには欠かせない、スナフキンの存在感。それはシリーズに初めて登場する本作でも、存分に発揮されています。もの静かで博識、そしてどこかつかめない独特の雰囲気は、その言葉ひとつをとっても私たちに伝わってくるようです。
「すんだことだよ。ね、きみ」とおびえるスニフをなだめる姿、さまざまな過去の冒険について臨場感たっぷりに語る姿。ムーミントロールとスニフ、少々楽観的でおっちょこちょいな彼らにスナフキンが加われば、絶妙なトリオが完成します。旅を通じて繰り広げられる、軽快なやりとりは必読ですよ。


彗星が近づく

おそろしい彗星が近づき、ムーミン谷は一体どうなってしまうのか…。暗くてつらい気持ちに塞ぎこんでしまいそうなときでも、ムーミントロールたちは家族の垣根を越えて協力し、助け合います。地球の危機が迫っているのに、どこか気の抜けたムーミンママやスノークのおじょうさんのことばには、思わずクスリと笑ってしまいそうになることも。ただ深刻に立ち向かうのではなく、少しの愉快さを織り交ぜた描写には、作者トーベ・ヤンソンの人柄が現れているようです。
序 10章に分かれて構成された本作は、展開のテンポが早く、読み応えも十分です。おびえるムーミントロールとスニフに向かって、「よし、よし。でも冒険物語じゃ、かならず助かることになっているんだ」とことばを掛けたスナフキン。かわいい息子たちの旅の帰りを待って、デコレーションケーキを作るムーミンママ。登場人物の個性が丁寧に描かれており、ムーミンシリーズの世界観をより強くにじませた作品となっています。

ムーミン谷の彗星の感想文集はこちら
ムーミン小説 たのしいムーミン一家(1948年)

たのしいムーミン一家(1948年)

あらすじ

ある嵐のあと、ねずみ色におおわれてしまったムーミン谷。「地球が滅びてしまうかもしれない!」怖がるムーミントロールとスニフは、ムーミンパパに言われ、『おさびし山』にあるという天文台へと旅立ちます。その途中で出会った物知りのスナフキンから、おそろしい「彗星」が地球に向かってくるという噂を聞き、ムーミンたちはいっそう大騒ぎ。そうして見知らぬ山を急ぐうちにも、長い尾をひいた彗星は近づいてきて…。


美しい季節とともに

本作『小さなトロールと大きな洪水』は、第二次世界大戦の終戦後まもなく出版されたものの、混乱の時代のなかで絶版となってしまった作品です。世界中の読者からの要望で再び出版されたのは、ムーミンシリーズが完結してから20年あまり経ってからのことでした。そのため、ムーミン誕生の記念すべき作品であるにもかかわらず、広く読まれるようになったのはシリーズ中最も遅いという数奇な運命を辿ったのです。


作者トーベ・ヤンソンの想い

ムーミン童話シリーズ第3作の本作『たのしいムーミン一家』は、寒く冷たい冬の季節からはじまります。本作では、季節の移り変わりが一つの軸になっているといえるでしょう。
ムーミントロールたちは、だいたい11月には、冬眠にはいるそう。長い冬を過ごすためにせっせと準備をしたり、待ちわびた春を思いっきり楽しんだり…。ムーミントロールをはじめとする大小さまざまな生きものたちは、うつりゆく季節とともに生きているのです。季節ごとに交わすあいさつや、ムーミンママのつくる美味しそうな食事の数々は、いきいきと私たちの目に浮かんでくるようです。


魔法のぼうし

ムーミントロールが拾った“飛行おに”のぼうしは、中に入ったものの形をすっかり変えてしまう、魔法のぼうしでした。彼自身も偶然中に入って、まったくヘンテコな姿に変えられてしまうのですが、このぼうしがおかしな事件を次々に起こしていくのです。
しかし、魔法はいつか解けてしまうものです。魔法のぼうしが生み出したものは、楽しいものも奇妙なものも、全ていつのまにか消えてしまいます。それとは対照的に、最後の場面で描かれているのは、魔法でも消えることのない大切なもの。目には見えなくても、魔法にも負けない幸福がそこにはありました。


不気味な生きものたち

“飛行おに”やモラン、ニョロニョロ…本作では、ちょっぴり不気味な生きものたちが登場します。時にはムーミントロールやスノークのおじょうさんを困らせ、怖がらせることも…。彼らはムーミン谷の平和であたたかな世界にひっそりと入り込んで、奇妙な存在感を放っています。
けれども、ムーミンパパとムーミンママにかかれば、不気味な生きものだってなんのその。素敵なご夫婦の何気ない一言は、子どもたちだけでなく、私たち読者のこころも和ませてくれるものです。それに加え、ひとりあたふたと騒ぐヘムレンさんには、少し不気味な場面でも思わずクスリと笑ってしまうかもしれません。


ムーミン一家の魅力

ムーミン一家の青いお家には、たくさんの生きものがやってきます。スナフキンやスノークのおじょうさんはもちろんのこと、ちょっぴり意地悪な“じゃこうねずみ”のおじさん、いつも不安げなヘムレンさんまで。ムーミンママの美味しい手料理が並ぶテーブルを囲み、好き好きに話す場面はシリーズ中何度も登場します。
「ムーミン一家」ムーミンパパ、ムーミンママ、ムーミントロールは、ムーミン谷に住む個性豊かな生きものたちを、家族のようにごく自然に受け入れながら生活しているのです。自由気ままで楽天的、暖かなこころをもつ彼らだからこそ、まるで日向に集まるように皆がやってくるのかもしれない、そう感じさせます。

たのしいムーミン一家の感想文集はこちら
ムーミン小説 ムーミンパパの思い出(1950年)

ムーミンパパの思い出(1950年)

あらすじ

夏のいちばん暑いさかりだというのに、ひどい風邪をひいてしまったムーミンパパ。ベッドに横になるのも、ラム入りトディを飲むのも大嫌いなパパは、ムーミンママに勧められるまま、『思い出の記』を書き始めます。そして書けた分ずつ、幼いムーミントロールやスニフ、スナフキンに読み聞かせることにしました。
ムーミンパパの青春時代、いろいろな生きものとの出会いと別れ…。冒険好きで空想家、そんなパパのルーツが独特な語り口調で綴られる、ムーミン童話シリーズ第4作。

『思い出の記』

本作『ムーミンパパの思い出』はそのタイトルの通り、ムーミンパパが自ら筆をとって綴った冒険物語です。そして注目すべきはその登場人物たち。発明家のフレドリクソンのほか、ロッドユールとヨクサルはなんと、それぞれスニフとスナフキンのパパなのです。3人のパパたちの経験を書き綴った『思い出の記』は、その子どもたちにとってどれだけ興味深いものでしょう!子どもたちはときどき口を挟んで、自分たちのパパについて質問したり、反論したり…。自慢げに答えるムーミンパパの姿は、もうすでに立派な作家のようです。

若かりしムーミンパパ

ムーミンパパが綴る冒険の数々は、まさに武勇伝といってもよいもの。勇敢にモランに立ち向かったり、大きな竜のエドワードをだましたりと、私たちがよく知る物静かで空想家なムーミンパパとはひと味違った雰囲気です。また、ムーミンパパの出生のひみつも記されていますから、はじめて知ることの連続に驚かされることもしばしば。
けれども、やはり親子ですから、好奇心で目を輝かせる姿やあたらしい家族をうけいれる寛大な姿は、私たちがよく知るムーミントロールとどこか重なって映ります。もちろん、スニフとスナフキンのパパたちにも、子どもたちのルーツをしっかりと感じることができます。

息子たちへの贈りもの

序章で述べているように、ムーミンパパの記念すべき処女作は「よい教訓になるように」という思いのもとで生まれました。とびっきりの空想家でもあるムーミンパパですから、少々オーバーなところはご愛嬌です。はじめて外の世界へ飛び出したときの感動と不安、個性豊かな仲間たちとの出会い、そして愛するムーミンママとの出会い…。臨場感たっぷりに描かれる場面の数々は、きっとムーミンパパが宝物のようにずっとずっと大切にしてきたもの。
目に見えるものだけでなく、目に見えないものも子どもたちへ伝えていきたい…そのような思いは、原作者トーベ・ヤンソンにも共通するものではないでしょうか。

これ以上ないほど素敵なエピローグまで読み終えたなら、皆さんもきっと幸せな、ぽかぽかした気持ちに包まれることでしょう。そしてもういちどはじめから、くりかえし読みかえしたくなるかもしれません。

ムーミンパパの思い出の感想文集はこちら
ムーミン小説 ムーミン谷の夏まつり(1954年)

ムーミン谷の夏まつり(1954年)

あらすじ

はじまりは、6月のムーミン谷。突然起こった火山の噴火と大洪水によって、ムーミン谷は水に沈んでしまいます。大水を逃れるため、ムーミン一家はちょうど流れ着いた誰もいない劇場へ移り住むことに。ところがある日、ムーミントロールはスノークのおじょうさんとふたり、大切な家族とはぐれてしまい…。


ムーミン谷を離れて

『ムーミン谷の夏まつり』というタイトルとは裏腹に、ものがたりの舞台はほとんどがムーミン谷から離れたところ。それだけでなく、冒頭ではムーミン谷の住み慣れた家までも手放すのですから、ムーミン一家はさぞかし不安なことだろう…と考えてしまいますが、彼らはあたらしい住まいを十分に楽しんでいるよう。芝居について一から教わり、自分たちで悲劇を完成させた上、失敗を恐れずに初上演まで成し遂げるのですから驚きです。
そして舞台が変われば、新たな生きものもたくさん登場します。素直だけれど、時々ないものねだりをしてしまうミーサに、ちょっぴり皮肉っぽいホムサ。ムーミン一家に芝居を教えてくれる、劇場ねずみのエンマさん…。全13章のものがたりは、まるで芝居のようにたくさんの生きものたちがかわるがわる登場しながら、離ればなれになってしまったムーミン一家と、ひとり旅をつづけるスナフキンの姿がテンポよく展開されています。


ニョロニョロはどこから来たの?

「ムーミン一家が芝居に初挑戦する」というものがたりの中で、もっとも異彩を放っているのが第6章。ムーミン谷を離れ、ひとり旅を続けていたスナフキンが、公園番を驚かせてやろうと企むのですが、その作戦で登場するのがなんと、あのニョロニョロなのです。ニョロニョロはいったいどうやって生まれるのか、そしてどこからやってくるのか?思わずあっと驚く秘密が描かれていますから、あの奇妙な生きものがなんだか気になる…そんな方は必読ですよ!


小さないきもののひとりごと

本作では、彼らのひとりごとがたくさん聞こえてくるようです。ひとりごと、というよりも、思わず口にしてしまった心の声と言った方がいいでしょうか。
わけも分からず洪水に流され、あたらしい家へ引っ越すことになったときや、いつの間にか家族とはぐれてしまったとき…。朗らかだけれど、楽天的ともいえることばの多くは、一見するとなかなか大変な場面で発せられているのです。知らないことや、おかしなことが起きたとき、その新鮮さを楽しむ生きものたちの賑やかな姿は、ムーミンシリーズに共通したものかもしれませんね。

「ここには、わけのわからないことが、いっぱいあるわ。だけど、ほんとうは、なんでもじぶんのなれているとおりにあるんだと思うほうが、おかしいんじゃないかしら?」
毎日がふしぎで溢れるムーミン谷での暮らし。ムーミンママのことばには、その魅力がつまっているようです。あたらしい舞台で広がっていくこの物語は、私たちにとっても、きっと素敵なお手本になってくれることでしょう。

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ムーミン小説 ムーミン谷の冬(1957年)

ムーミン谷の冬(1957年)

あらすじ

まだ少し新年を過ぎたばかりのムーミン谷。深い雪に包まれ、静まりかえった家の中で、ムーミントロールは突然冬眠からさめてしまいます。けれども、待ちわびる春はまだ先のこと…。はじめて体験する真っ白な冬の世界で、彼は見たこともない冒険に飛び出します。


ひみつの世界

寒くて冷たい冬の世界。ふつうねむっているはずの生きものが目覚めてしまったら、どうなるでしょう。ひとり目覚めたムーミントロールは、見たこともなかった真っ白な雪の感覚、そしてひみつの生活をしていた生きものたちの存在を知ることになります。
「あたりがひっそりとして、なにもかも雪にうずまり、たいていの生きものが冬のねむりにおちたときになると、やっとでてくる」という、かわりものの生きものたち。本作では彼らが次々に登場し、ムーミントロールとふしぎな出会いを生み出していきます。


黒いリボン

空の色が青からみどりに変わるとき、海の方からやってくる氷姫。その顔を見つめたら、どんな生きものもたちまち凍りついてしまうといいます。おしゃまさん、ちびのミイとともに、ひっそりとその姿をうかがっていたムーミントロールでしたが、彼らの目の前で小さなりすが氷姫に見つめられ、すっかり凍ってしまいます。
生きものの「死」に立ちあうこととなったムーミントロールたち。お葬式をしなければ、と準備をはじめるのですが、そのかなしみを黒いリボンで示し、りすへ贈る詩をつづる場面はとても印象的です。
ムーミンシリーズで描かれる生きものの「死」。それは冬のものがたりにひっそりと寄り添い、私たちのこころに染み込んできます。けれども、作品のなかで少しずつ雪解けが進み、春が近づいていくように、原作者トーベ・ヤンソンは最終章にユーモアな仕掛けをのこしていました。しんとした冬の静けさとは一変して、冬眠から覚めた生きものたちの賑やかな様子は、まるで目に浮かぶようにいきいきと描かれています。


はじめての冬

あたたかな家の中では、ムーミンパパもムーミンママも冬眠のまっただ中。起きる気配はまだまだありません。寂しくなったムーミントロールはひとり家を離れ、はじめての冬を体験しながら大きくたくましく、成長していきます。ムーミンハウスにお客さんを招いたり、スキーに挑戦したり。「1年じゅうを生きぬいた、最初のムーミントロール」になったとつぶやくころには、いつもののんびり屋な姿とはひと味違い、なんともたくましい様子です。
いつもなら眠っている時間。周りが寝静まっているなか、ひとり起き上がって、こっそりと動きはじめる…。すこしだけ大人になったような、自分のこころにそっとしまっておきたい秘密を抱えたような…きっといつか感じたことのある特別な気持ちを、あなたも思い出すかもしれません。

木々が雪をふるい落とし、どこからか土のにおいがしてくると、待ち望んだ春はもうすぐ。さいしょの春の夜がいったいどのようなものだったのか…ぜひ実際に本を手にとって、確かめてみてくださいね。

ムーミン谷の冬の感想文集はこちら
ムーミン小説 ムーミン谷の仲間たち(1963年)

ムーミン谷の仲間たち(1963年)

あらすじ

ムーミン谷で暮らす個性豊かな住人たちを描いた、9つの短編集。ひとり旅を続けるスナフキンと、ある“はい虫”との出会いを描いた「春のしらべ」、ムーミントロールが小さな竜を捕まえてはじまる「世界でいちばんさいごの竜」、表紙の絵にも登場する「目に見えない子」…ものがたりの中心となるのは、慣れ親しんだ登場人物に限りません。作者ヤンソンの新たな挑戦と魅力が融合する、ムーミン童話シリーズ第7作。


お気に入りを見つけよう

心配性のフィリフヨンカは、大きな災難がくるといってひどく怯えています(「この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ」)。ひとりになりたいヘムレンさんは、遊園地の入場券にパチンと穴をあける仕事をしながら、いつか年金で暮らそうと計画を立てています(「しずかなのがすきなヘムレンさん」)。突然ひとり旅に出かけていったムーミンパパはあの奇妙な生きもの、ニョロニョロに出会います(「ニョロニョロのひみつ」)。…というように、ものがたり毎にまったく違う主人公、そしてそれぞれのハッピーエンドが準備されていますから、まず目次を見て気になったタイトルから読み進めるのも素敵ですね。


愛すべき主人公たち

もし前作品までを読み終わっていたら、本作『ムーミン谷の仲間たち』に登場する生きものたちは、今までと少しだけ違って見えるかもしれません。イメージしていた性格と異なっていたり、ものがたりの中で徐々に変化を見せていったり…。もう十分に知っている、分かっていると思っていても、新しい発見や驚きが次々に導かれていくのです。原作者トーベ・ヤンソンの生み出すキャラクターの魅力は多面的なものであり、それもまた人々に愛される所以だと実感します。自由に変化を遂げていく主人公たちは、生きていくことで誰もが自分なりのものがたりを紡ぎ出しているのだと、私たちに教えてくれているようです。


世界観を楽しむ

ムーミンシリーズといえばもちろん、ムーミントロールや、ムーミン一家を思い浮かべる方が多いことでしょう。けれども、その世界観に絶妙なスパイスを加えるのは、どこからかやって来てまたいつの間にか去っていく…そんな奇妙な生きものたちではないでしょうか。原作である本シリーズでは、中心となって描かれる生きものは作品ごとに様変わりします。ムーミントロールとの関係や、彼らによって巻き起こるふしぎな出来事の数々は、読者を惹き付けてやみません。
本作では、その新鮮な驚きが9つのものがたりの中に、優しく大切に包まれています。それはまるで、トーベ・ヤンソンから私たちへの贈り物のよう。ページをめくるたび、プレゼントの包み紙を開くときのように、わくわくした気持ちにさせてくれます。

朝の電車に揺られながら。お昼休みの空き時間に。夜、眠りにつくまえに…。ふとした時間にきっと何度も読みたくなる、珠玉のものがたり。ページを開けば、そこに広がる素敵なムーミン谷の世界で、あなただけの主人公が待っています。

ムーミン小説 ムーミンパパ海へいく(1965年)

ムーミンパパ海へいく(1965年)

あらすじ

平和な日々が続くムーミン谷。ムーミンパパは、そんな毎日に物足りなさを感じていました。そこで思い立ったのは、大きな灯台のあるムーミンパパの島への移住計画。夏が終わるやいなや、一家は住み慣れた大切な家を離れて出発します。海を越えてたどり着いた新天地で、すべてが一からの暮らしが始まるのですが…。


いつもと違う一家の姿

怒りを中に閉じ込めて、まるで気持ちがばらばらになってしまったようなムーミンパパ。どこかうわの空で、「おかしいわ」と繰り返すムーミンママ。いつも穏やかなムーミン一家が、なんだか落ち着かない様子です。そしてあのおそろしいモランまでもが近づき、一家を包む不穏な空気は一層濃くなっていく中で、彼らは新天地を求め船に乗り込んでいきます。


モランが近づく

モランにとって、時間とはいつまでも終わりのないもの。ですから、彼女は急ぐということを知りません。1時間だってじっと座っていることができるのですが、彼女に座られたその地面はあまりの恐ろしさに死んでしまい、冷たく凍ったその場所からは二度と緑が生まれることはないといいます。ムーミン谷の住民たちは皆彼女を恐れ、彼女について話をすることさえ嫌っていました。それなのに、どういうわけかモランはムーミン一家を追って海を渡り、新天地である島へやってきてしまうのです。
ものがたりの中で、その異質な姿は際立って描かれます。辺りがすっかり暗くなってから、カンテラの光に引き寄せられるようにやってくる彼女の存在は、周りを海に囲まれた島の暗闇を、より深くさせるようです。


子どもたちの秘密

ムーミンパパもムーミンママも、新しい島に暮らすようになってからというもの、いつも考え事をするようになりました。そのためか、彼らは子どもたちが何をしているか、どんな変化をし始めたのか、まったく気づかなかったのです。まるで歯車がかみ合わないような時間が過ぎていくうち、ムーミントロールは、両親には決して話せない秘密を抱えてしまいます。家族のなかで唯一、ちびのミイだけはこのことに気づいていたのですが…。
実は本作『ムーミンパパ海へいく』では、これまでの賑やかな仲間たちは登場しません。ムーミン一家に主な焦点をあて、彼らの心情の変化が丁寧に時間をかけて描かれています。読み手である私たちはその変化に寄り添い、ファンタジーという枠を超えたひとつの家族の歴史としてもまた、じっくりと読み解いていくことができるでしょう。


家族の役割

可愛らしいエプロンをつけて、家族においしい料理を振る舞うムーミンママの姿を、私たちはずっと見てきました。ムーミンママは、夕飯時になればいつも台所に立っている…。それがいつのまにか当たり前になり、「ママ」としての役割になっていたからでしょう。もちろんムーミン一家だってそう考えていましたから、島で暮らし始めてしばらく経った時、夕飯時になっても台所に現れないムーミンママに大慌て。みんなで島中を探しまわることになってしまいます。
その一方でムーミンパパは、自分の考える「パパ」の役割を果たそうと奔走します。新しい住まいを求めてムーミン谷を離れるときも、いよいよ島に移ってからも、「海のことなら任せろ」と言わんばかり。責任感にあふれた父親として一生懸命に動き回るのですが、なんだか空回りしてしまうこともしばしば…。
そんなとき、「わたしたちは、おたがいに、あまりにも、あたりまえのことをあたりまえと思いすぎるのじゃない?」とムーミンママは言うのです。これは、原作者トーベ・ヤンソンが私たちに語りかけていることばとしても、捉えることができるのではないでしょうか?

ムーミン童話シリーズ第8作にして、本作はこれまでとはまったく違った雰囲気をまとった作品となっています。登場人物たちの心の変化や、それに伴って少しずつ変わる彼らの暮らしを、ぜひ見届けてください。

ムーミンパパ海へいくの感想文集はこちら
ムーミン小説 ムーミン谷の十一月(1970年)

ムーミン谷の十一月(1970年)

あらすじ

真っ白な冬の訪れを静かに待つ、11月のムーミン谷。そこへなんだか人恋しくて、ムーミン一家に会いたくなったひとりぼっちの生きものたちが次々とやってきました。ちびっこホムサのトフト、神経質なフィリフヨンカ、自分嫌いのヘムレンさん、そして美しい音色を求めて旅をしていたはずのスナフキンまで…。主人のいないムーミンハウスで、いつのまにか奇妙な共同生活がはじまります。


住人のいないムーミンハウス

ひとりぼっちで過ごしていた理由はさまざまですが、ムーミン一家に会いたいという気持ちはみな同じ。主人のいない家で奇妙な共同生活を送ることになった彼らは、それぞれがムーミン一家に思いを馳せます。
本作『ムーミン谷の十一月』は、ムーミン童話シリーズ最終巻にしてムーミン一家がほとんど登場しないという大変ふしぎな作品です。けれども、ムーミン谷に集まってきた生きものたちの回想や、好き勝手に語られる思い出の数々によって、その存在はむしろ強く、あたたかくにじみ出てくるように思えます。


秋の深まりとともに

作中では、秋の深まりにしたがって生きものたちも物思いに沈んでいく様子が描かれています。ムーミン一家に会うために、慣れ親しんだ暮らしを離れてやってきたひとりぼっちの生きものたち。ムーミンハウスのあの大きなテーブルで一緒に食事をとったり、玄関先に座って自由に話をしたり…。時間が経つにつれ、彼らはまるでムーミン一家のように自分の思いを話し合い、お互いを気遣うようになっていくのです。季節がゆっくりと移り変わるなか、彼らもまた自分のこころに向き合って、その変化を受け入れていきます


ムーミン一家のゆくえ

「目がさめたときにたいせつなのは、ねむっているあいだも、だれかが自分のことを考えてくれていた、ということがわかることなんだ」とトフトはいいます。ひとりぼっちだった生きものたちは、ムーミン一家という共通項のもとで通じ合ったのち、冬がやってくる前にそれぞれの生活へ戻って行きます。それでも寂しくないのはきっと、彼らはもうひとりではないことを知っているから。ムーミン谷での短い共同生活は、だれかを思うことの素晴らしさを教えてくれたのです。
ムーミン谷が真っ白な雪に包まれるその前に、ものがたりは幕を下ろします。主人の帰りを知らせる明るいカンテラの光は、まるで舞台の照明が消える一瞬のきらめきのよう。長い冬眠から覚めたなら、賑やかな美しいムーミン谷がすぐに戻ってくるでしょう。

これまで、全9巻のムーミン童話シリーズをご紹介してきました。シリーズを通じて、個性豊かな登場人物たちはいきいきと動き回って私たちを楽しませ、丁寧に描かれたムーミン一家の暮らしは多くの大切なことを伝えてくれます。
ファンタジーをより魅力的に彩るのは、ユーモアに溢れた生きものの話し声や、可愛らしい挿し絵の数々。原作者であるトーベ・ヤンソンは常に新しい挑戦を続け、世界中の人々に愛され続ける素晴らしいものがたりをつくり上げました。私たちはいま、その大切な贈りものを受け取ったのです。ムーミンの世界は、すべてここに詰まっています。

ムーミン谷の十一月の感想文集はこちら